上の図は100年も前に公表されたミュラー・リヤーの錯視の図です。
2つの直線は同じ長さですが、くの字の方向によって、目の錯覚が生まれ、どちらも同じ長さには見えません。
これは物質的数値だけの話ではなく、建築の世界においても錯視的な要素を空間に取り入れると、数値以上に開放的な空間ができたりするのです。
しかし、天井を高くする=開放的ではなく、また広い=開放的ということではありません。
ここでいう開放性とは、居心地の良い空間という意味です。
極端な例ですが、面積を大きく、天井も高くしても、体育館のようになれば、何か落ち着きません。
トイレなども天井が高いと落ち着いて用が足せない気がします。
リビングやダイニングにおいても、同じことが言えます。
椅子の生活か、床に座る生活かによっても高さの見え方は変わってきます。
居心地の良い空間にするためには「高さ」はとても大事な要素で、部屋の用途や広さに応じて高さに変化を持たせることで、空間はより生きてくるのです。
●高低差をつけて、視界の変化を利用する。
下の写真の空間は、一体化されたLDKのダイニングとキッチンをあえて2100mmの天井高にした上で、リビングの天井だけを高くして、天井に変化を与えています。
そうすると、リビングはとても視界が広がったように感じます。
リビングを南に面した吹き抜けにすると、さらに開放的な空間となります。
吹き抜け上部に開口部を設けると、自然光を北面取り込むことができるため、リビング全体が明るく気持ちのいい空間になります。
それに加え、リビングに階段を設置すると、階段が吹き抜けとして機能するので、吹き抜けがより増し、より効果的な空間利用ができます。
その際の階段はけこみ板をなくし、手すりも細いスチールも設け、光や視線が通り抜けるようにするとさらに開放感が増します。
●開口部に向かって天井を下げて、重心を開けた庭の方へ。
庭のある開口部に向かって天井を低くしていくと、空間の重心は下がって、開口部にパノラマのような錯視効果が生まれ、よりキレイなシルエットで庭を眺めることができます。
また、天井を低くすることによって、庭の奥行きが引き立って見えます。
これはカメラのレンズの絞りの原理と同じで。焦点の面積を絞ることで、よりシャープではっきりみえるようになります。
●天井を通す 「抜け」の爽快感をいかす
LDKを開放的に使いたいけれど、キッチンにありがちな雑多なものを隠したいので壁を設けたい。これもよくあるご要望のひとつです。
しかし、キッチンとダイニングの境に壁を設けてしまうと、当然LDとKは遮断され、壁のない空間よりも開放感はなくなります。
そこで、キッチンの壁を天井まで伸ばさず、少し隙間を設けてあげるのです。
そうすると、LDKの一体感は損なわれず、視界が抜け、風や光の通り道ができ、広がりが保てるのです。
隙間が空いているのが少し嫌だなという方には、透明のガラスやポリカ-ボネート板などを入れるとよいでしょう。
そうすれば視界だけが通り、開放感は失われません。
上の写真は同じ効果のものです。
外壁の上部にガラスを入れることで、中の天井と外の軒につながりができ、広がりが生まれています。
このように、狭いところでは特に、「抜く」ってかなり効果あるんです。
●天井(壁)に間接照明をあてる
天井や壁を間接照明で照らすことにより、高さが強調され、 壁からの圧迫感が軽減するので、部屋を広く感じさせることができます。
天井から反射した光が拡散され、部屋全体を柔らかい光に包まれるので、部屋全体が落ちついたやさしい空間になります。
住宅の天井の高さは、物理的な寸法よりも、高さの変化とつながりの方に重きを置いて考えることでより良い空間は出来る場合が多くあります。